「読み物教材の登場人物への自我関与が中心の学習」とは
この指導法のねらいは、「教材の登場人物の判断や心情を自分との関わりで多面的・多角的に考えることなどを通して、道徳的諸価値の理解を深める」ことである。
具体的な発問例としては、
- 「どうして主人公は、〇〇という行動を取ることができたのだろう」、
- 「主人公はどういう思いをもって△△という判断をしたのだろう」、
- 「自分だったら主人公のように考え、行動することができるだろうか」
が挙げられる。
従来のような「読み取り道徳」、つまり「登場人物の心情理解を読み取る指導」は、他人事になりがちで、無関心・無責任な考えになるため適切ではないことになる。
そこで、子どもが登場人物の出来事を自分事として考え判断できるように、読み物教材に登場する人物に子どもの自我を関与させて、問題解決の場面に向き合うことが大事になる。
①の「どうして主人公は、〇〇という行動を取ることができたのだろう」は、登場人物の心情や考えを(模範解答のように)理解することになるため、「読み取り道徳」に近い発問となる。
②のように「どうして(どういう思いで)そう判断したのか」と理由や根拠を尋ねると、登場人物(主人公)の判断理由を理解することはできる。
③のように「自分だったらどうするか(主人公のようにするか)」と判断を尋ねたりすることが重要になる。
国語科では、登場人物の心情や作者の意図を正確に読み取ることが重視されるが、道徳科では登場人物の心情や考え方に子ども自身の自我を関与させて、「自分ならどうするか」「なぜそうするのか」を考え議論することが肝心になる。
この指導法は、登場人物の心情や考えを理解させることが本来の目的ではなく、ねらいとする道徳的価値の意義を子どもに理解させることが目的となっている。
ただし、こうした知識(価値)を理解させることを主とした従来型の発問では、登場人物の答えが模範解答のようになり、既に答えが一つに決まってしまう傾向にある。
そうすると、登場人物のもつ特定の(道徳的)価値観を子どもたちに押しつけることになったり、子どもに分かりきったことを言わせたり書かせたりする学習になりがちである。
こうした諸点を十分に留意して、登場人物の考えは参考程度にして、子どもたち一人一人が主体的に問題を考え判断できるように配慮する必要がある。
参考図書
『「考え議論する道徳」を実現する!―主体的・対話的で深い学びの視点から―』、図書文化社、2017年