道徳教育

- Moral -

ここでは新学習指導要領における道徳教育および「特別の教科 道徳」のあり方や指導法について提示する。
特に、問題解決的な学習や体験的な学習を活用した「考え議論する道徳」のあり方や指導法、具体的な指導過程について解説する。

「道徳教育」とは

そもそも「学校における道徳教育」とは、学習指導要領第1章 総則第1(2)によると、
「教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき、自己の生き方を考え、主体的な判断の下に行動し、自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標」としている。

「考え、議論する道徳」とは

「考え、議論する道徳」とは、学習指導要領(総則)によると、
「発達の段階に応じ、答えが一つではない 道徳的な課題を一人一人の児童・生徒が自分自身の問題と捉え、向き合う」学習であり、
「個人が直面する様々な状況の中で、そこにある事象を深く見つめ、自分はどうすべきか、自分に何ができるかを判断し、そのことを実行する手立てを考え、実践できるようにしていく」学習である。

このように「考え、議論する道徳」は、子どもの発達状況や発達段階をふまえて、道徳的な課題や問題を取り上げ、その解決策を考え議論する授業形態になっている。
「考え、議論する道徳」の代表的な指導法である問題解決的な学習は、次のように定義されている。
「道徳科における問題解決的な学習とは、生徒一人一人が生きる上で出会う様々な道徳上の問題や課題を多面的・多角的に考え、主体的に判断し実行し、よりよく生きていくための資質・能力を養う学習である」(中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編)。

文部科学省で提示する「考え議論する道徳」の事例は、基本的に問題解決的な学習に対応したものである。
例えば、過ちを許す立場(相互理解・寛容)と自分勝手を許さない立場(規則尊重)で対立・葛藤がある場合にどうすればよいかを考えるものがある。
また、信頼や友情を育む心(友情・信頼)と同調圧力に流されない心(公正・公平・社会正義)が対立した場面にどうしたらよいかを話し合うものもある。

質の高い多様な指導法の例

「道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議」の報告書(2016年7月)では、道徳授業における「質の高い多様な指導法の例」として、以下の三つの指導法を取り上げている。

  1. 読み物教材の登場人物への自我関与が中心の学習
  2. 問題解決的な学習
  3. 道徳的行為に関する体験的な学習

専門家会議で示された三つの指導法の中では、①の「自我関与が中心の学習」は、道徳的諸価値に関する知識理解に対応している。
②の問題解決的な学習と③の道徳的行為に関する体験的な学習は、「様々な課題や問題を主体的に解決するために必要な資質・能力を養う」ことを目的とした「考え、議論する道徳」であり、「主体的・対話的で深い学び」にも対応している。
ただし、こうした三つの指導法が完全に独立して用いられるわけではないため、それぞれの要素を組み合わせた指導を行うこともできる。

「考え、議論する道徳」の指導法は文部科学省において大枠で示されているが、様々な内容項目に対応させて授業展開や効果的な発問を開発・実践していくことが求められる。
そのためには、従来の指導方法(登場人物の心情理解に偏った指導)との質的な違いを明確に認識し、問題解決的な学習や体験的な学習に代表される「考え、議論する道徳」の理論構成と指導方法(学習指導過程や発問など)を「主体的・対話的で深い学び」と関連づけて根本的に理解して実践に役立てることが肝心である。

また、「考え、議論する道徳」は、特別の教科としての意義や特質から、各教科と違って「資質・能力の三つの柱」や道徳性の諸様相を観点別に評価を行うことはなじまない。
それゆえ、道徳科の目標に準拠した形で指導と評価の方法を具体的に吟味し、その信頼性や妥当性を確実に担保していくことが課題となる。